#46 映画と漫画、才能の育て方から考える業界の違い
- Update:
- 2025.05.26

山田兼司 映画・ドラマプロデューサー


- Update:
- 2025.05.26
Tyken Inc. CEO 映画・ドラマプロデューサー。慶應義塾大学法学部卒。ドラマ「BORDER」シリーズ、「dele」などを手掛け、東京ドラマアワード優秀賞を2度、ギャラクシー賞を3度受賞。また、仏カンヌでは「dele」でグランプリを受賞。映画「怪物」でカンヌ国際映画祭脚本賞、クィアパルム賞の2冠。「ゴジラ-1.0」では北米の邦画興行収入歴代1位を記録し、史上初のアカデミー賞視覚効果賞を受賞。同年、個人として「怪物」「ゴジラ-1.0」で2つのエランドール賞と藤本賞を受賞。北米では2023年を代表する「アジアゲームチェンジャーアワード」をグラミー賞受賞アーティストのアンダーソン・パークらと共に受賞した。2024年よりPGA(Producers Guild of America)の正式会員に選出。最新の企画・プロデュース作は「ファーストキス 1ST KISS」。

イナズマフラッシュの収録レポートをお届けする本ページ。
今回は番組6人目のゲストとして、映画・ドラマプロデューサーの山田兼司さんをお招きして録音された、#46収録の様子をご紹介します。
前回、冒頭からあまりにも激しい船での体験で盛り上がった二人でしたが、今回は映画産業のとてもリアルなお金の話からスタートしていきます。
山田さんが28歳で映画プロデューサーに抜擢された2000年代後半は、劇場収入とDVD・Blu-rayのパッケージの2つが収入の柱。本編で登場したMGとはMinimum Guaranteeのことで、イメージは「本が出る前に、出版社が作者に印税を前払いする」ような仕組みのことです。
時代の移り変わりと共に、パッケージから配信へと映画の流通は変化。パッケージの場合、ある種収入の上限は青天井で、ヒットすればするほど売れる仕組みでしたが、配信はそうではないとのこと。その結果、邦画は興行収入を追い求めつつ、国内の視聴者だけでなく、海外のマーケットも視野に入れていく必要に迫られているのです。
一方で流通の変化によって、全世界で売れるようになったのが漫画。漫画家と編集者という最少人数のチームで、本気で突き詰めた作品を世界中に送ることができるのが、構造的に羨ましいと山田さん。映画の場合どうしても100人規模の人間が関わることになり、世界中どこでも映画を撮るという行為はコストがかかってしまいます。
お話は山田さんのキャリアに戻ります。「人事権は神の権利」と林さんが評するように、テレビ局や出版社に限らずほとんどの日本の会社では、人事異動によって個人のキャリアが大きく左右されてしまうのが当たり前。
28歳で映画プロデューサーデビューとなった山田さんの場合も、わずか2年でドラマの部署に異動。もう一度アシスタントのような立場からやり直すことになります。それまで映画の部署ではビジネス的な仕事が多かったそうですが、ドラマ部では現場での職人的な仕事が増え、モノづくりをし続ける生活に突入していきます。
テレビ局のドラマというものは、ゼロから企画を作れることはほぼ無いというお話も。様々な制約や条件が既に決まっている状態で、その制約のなか条件をクリアするような作品づくりが求められるのです。山田さんのお言葉を借りて、ここに記しておきます。察してください、皆さん。
ドラマの部署では10年活躍した山田さん。キャリアの初期や中期は、上記のような制約と条件の中でドラマづくりに奔走し、後期になると何の不満も無く作りたいものを作れる状況へと変化していきます。作品が評価され、視聴率や賞といった分かりやすい功績が付いてきたことと、その最中で出会ったクリエイターたちとの成功体験がその状況を生み出していきました。
それに対する林さんの「その時に何かしらの邪魔は入るわけじゃないですか」の一言で、スタジオは笑いに包まれます。自身も大きな組織でやり方を作ってきた人であり、かつ様々な事情を知っている林さんだからこそ出来た、間の一切ない鋭い差し込みでした。
突出したクリエイターと組んで挑戦をするなかで、どうしてもテレビ局内の方法論や営業的なリスクヘッジなど、あらゆる部分で衝突が発生します。山田さんのブレイクスルーとなった作品でも、最初は視聴率が低かったことや内容が挑戦的だったこともあり、営業の方に怒られて反省文を書いたそう。
反省文を書くほどの挑戦をしたからこそ、作品は評価され山田さんの中で大きな原体験となりました。リスクを取って挑戦したものしか見たことのない結果にはならない。置きにいっても置きにいった結果しか出ないのです。
一方で林さんは、漫画の場合キャリアのタイミングで、わざと置きにいくような方向に作家さんの背中を押すこともあるそう。その作品を世に出して反応を浴びるという経験が、その作家さんの成長に繋がる場合もあり、またそこでの失敗のリスクが少ないことが漫画の強みだと語ります。
映画に関しては世界的にチャレンジできる枠が限られており、『ムーンライト』や『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』などで知られる映画スタジオのA24では、常に新しい才能を探しているが、その作家性の評価は2作品目までで定まってしまうと山田さん。多くの人員が密に絡まり合い、多くの時間とコストをかけて作る映画という世界に、様子見という概念は無いのかもしれません。
次回はドラマから再び映画を志す山田さんのキャリアの続きを伺いつつ、映画プロデューサーとして関わってきた作品での経験などをお聞きしていきます。
ぜひ番組とこのホームページでお楽しみください。