#47 40歳目前で迎えたキャリアの転機と通る企画の生み出し方
- Update:
- 2025.06.02

山田兼司 映画・ドラマプロデューサー


- Update:
- 2025.06.02
Tyken Inc. CEO 映画・ドラマプロデューサー。慶應義塾大学法学部卒。ドラマ「BORDER」シリーズ、「dele」などを手掛け、東京ドラマアワード優秀賞を2度、ギャラクシー賞を3度受賞。また、仏カンヌでは「dele」でグランプリを受賞。映画「怪物」でカンヌ国際映画祭脚本賞、クィアパルム賞の2冠。「ゴジラ-1.0」では北米の邦画興行収入歴代1位を記録し、史上初のアカデミー賞視覚効果賞を受賞。同年、個人として「怪物」「ゴジラ-1.0」で2つのエランドール賞と藤本賞を受賞。北米では2023年を代表する「アジアゲームチェンジャーアワード」をグラミー賞受賞アーティストのアンダーソン・パークらと共に受賞した。2024年よりPGA(Producers Guild of America)の正式会員に選出。最新の企画・プロデュース作は「ファーストキス 1ST KISS」。

イナズマフラッシュの収録レポートをお届けする本ページ。
今回は番組6人目のゲストとして、映画・ドラマプロデューサーの山田兼司さんをお招きして録音された、#47収録の様子をご紹介します。
報道から映画、そしてドラマへとたどり着いた山田さんのキャリア。ドラマプロデューサーとして10年間チャレンジを続け、ある程度裁量を持ってモノづくりに挑める環境が整ったところが前回まで。今回は再び映画業界へと戦いの場を移すことになる時期のお話を伺っていきます。
ドラマづくりを続けていく中で、行動や予算の関係によって、テレビ局という組織の中でできることはある程度やり尽くしたと感じていた山田さん。特に2018年にテレビ朝日系金曜ナイトドラマ枠で放送された『dele』は、二度と出来ないし誰にも再現できない作品だと思っているそう。ある種燃え尽きたような状態だった山田さんの元に、友人から東宝からの誘いが届くことになります。
元々映画を作りたくて業界に入ったこと、会社に留まることによるキャリアの限界、その頃には配信という大きな波も見えるところまで迫ってきていたことなど、様々な要素を鑑みた結果、山田さんは2019年に東宝に移籍し再び映画作りに携わることになるのです。
脚本家の坂元裕二さんとずっと仕事をしてみたかったという山田さんは、駆け出しの頃に朗読会の出待ちをしてまで坂元さんと会いに行き、以降食事や坂元さんの東京藝大での講義に呼ばれるまでの関係に。そして東宝に入る前から『怪物』の企画の準備を進めていたと言います。
当時『花束みたいな恋をした』より前のタイミングであり、坂元さんも山田さんも映画経験が少ない状態。ある意味でアマチュア的な目線で、面白かった映画や最近の気になったニュースなどいろんな視点から話していく中で、少しずつ『怪物』の企画が固まっていきます。
テレビ局時代の異動とは違い、今回はしっかりとプロデューサーとして、戦力として映画に向き合うことに。東宝が配給する映画の本数は当然限られており、そこには人気シリーズアニメの映画をはじめ、人気原作の企画や歴戦のプロデューサーが温めてきた企画などがあり、その中で採用されるというのは簡単なことではありません。
「企画はコミュニケーション」と山田さん。長く東宝で経験を積んできた諸先輩方と常にコミュニケーションを取り、どんな企画があり得るのかを探りつつ、自分の中でのテーマやクリエイターとの関係値を整理して、アウトプットを検討し続けていく。プロットまで進んだものなど、企画の種は20を超えていたとのこと。自らの若い時代の経験を活かし、自分のやりたいことに向かって最短距離で進んでいく山田さんの熱い姿勢を感じました。
また「映画の企画は生き物みたい」という山田さんの興味深すぎる発言も。企画の種を20個レベルで抱えて日々を送っていく中で、その中の幾つかが生き物のように少しずつ命を帯びだすそう。それは座組やスケジュール、ラインナップの具合やタイミングなど、様々な要素が絡み合いつつ、もちろん企画自体のクオリティも関係してきます。
それは裏を返せば、企画の段階である程度先も見えてくるということ。通るタイミングの儀式はしっかりとしたうえで、通ることを見越して動くことができます。経験値が溜まってくると、実は企画書を出してからYesかNoか、というモメンタムはほとんど無いと教えていただきました。
0から企画を立ち上げて、座組や予算、配給から上映まで手掛ける映画のプロデューサーは、どちらかという起業家に近いというお話も。前回#46では、映画界の問題としてなかなかチャンスが回ってこないという話題も出ましたが、しっかりと先を見据えて考えながら動くことが出来れば打席に立つ機会を得ることは出来るのかもしれません。
お二人とも輝かしい実績を手にした今、若い才能や新しい試みにどれくらい時間やコストを割けるのか、というフックアップする側のお話も非常に興味深いものでした。映画と漫画の作り方の違いによるチャンスの差はあるにせよ、両者ともに挑戦を続け新しい才能と関係性を築いていくことが非常に重要だという意見。
編集者も映画プロデューサーも、星の数ほど居るクリエイターの中から、自分の経験やセンスで声をかけ、世の中に送り届けるという仕事。はじめまして、と会いに行くことが大事であり、会わないと何も始まらないと盛り上がったところで今回はお時間に。
次回は収録1回目の最終回。アニメーションというクリエイティブの難しさや、作品数が増え続けていく林さんの働き方、運と縁が良くなるためにやっていることまで、幅広くお話していきます。
ぜひ番組とこのホームページでお楽しみください。