#48 映画業界で企画を通すために必要なことは何かを考える

Update:
2025.06.09

山田兼司 映画・ドラマプロデューサー

Update:
2025.06.09

Tyken Inc. CEO 映画・ドラマプロデューサー。慶應義塾大学法学部卒。ドラマ「BORDER」シリーズ、「dele」などを手掛け、東京ドラマアワード優秀賞を2度、ギャラクシー賞を3度受賞。また、仏カンヌでは「dele」でグランプリを受賞。映画「怪物」でカンヌ国際映画祭脚本賞、クィアパルム賞の2冠。「ゴジラ-1.0」では北米の邦画興行収入歴代1位を記録し、史上初のアカデミー賞視覚効果賞を受賞。同年、個人として「怪物」「ゴジラ-1.0」で2つのエランドール賞と藤本賞を受賞。北米では2023年を代表する「アジアゲームチェンジャーアワード」をグラミー賞受賞アーティストのアンダーソン・パークらと共に受賞した。2024年よりPGA(Producers Guild of America)の正式会員に選出。最新の企画・プロデュース作は「ファーストキス 1ST KISS」。

収録レポート

イナズマフラッシュの収録レポートをお届けする本ページ。

 

今回は番組6人目のゲストとして、映画・ドラマプロデューサーの山田兼司さんをお招きして録音された、#48収録の様子をご紹介します。

前回から引き続き、企画に関する話題からスタートした#48。林さんから「いま2-3年目の映画プロデューサーが全国でヒットする映画を作るには?」という質問が飛びます。映画はそれぞれが独立した企画であるがゆえ、正攻法は無いとしつつ、分かりやすい例で言えば「誰もが知っているすごい原作権を抑える」ことだと山田さん。

 

確かにヒット作品の映像化の権利と著名なスタッフのキャスティングを済ませていれば、その企画は簡単に通ることでしょう。もちろんそんな話が簡単に転がっている業界ではなく、原作権を抑えるためには様々なステップが立ちはだかります。

 

まず原作の権利を持っている出版社などへの企画書が当然必要となります。この段階で、誰もが知っている作品であれば、著名なキャストや監督、脚本家へのキャスティングがある程度進んでいる段階でないと、原作元としては気持ちよく首を縦には触れません。各業界へのネットワークとコネクションが無ければ、そもそも議論の対象となる企画書を作り上げることすら難しいのです。

日本だけでなく、世界のあらゆるプロデューサーから映像化の問い合わせが届く現在、原作モノはかなりのレッドオーシャンになっています。一方で、オリジナル作品を作るために脚本家さんを探して…となった場合、業界歴が浅い時点ではなかなかタッグを組んでもらうのは難しいようです。

 

では自分で脚本を書こう!と自ら筆を取ったプロデューサーが何人居たか分かりませんが、実際に賞を取りヒットまでいったスーパーマンは川村元気さん以外に居ません。

 

「聞けば聞くほど無理ゲーっぽい」と林さん。チャンスは少なく、いざ打席が回ってきたら100%のホームランを要求される。確かに何も無いところから映画プロデューサーとしてのキャリアを歩む、というケースの難易度はかなり高そうです。

 

若いうちはドラマを作る中で経験値を積み上げ、結果を出してから映画に行くというのはオススメだと山田さん。山田さんの場合も、報道→経理→映画→ドラマとテレビ朝日での経験値をかなり幅広く身につけたうえで、東宝での映画製作へと至っています。貴重なチャンスを無駄にしないために、数年から数十年の修行もいとわないレベルの意識が無ければ、映画業界での成功は難しいのかもしれません。

世界で、実写映画で戦う山田さんの目線からも、やはり日本のエンタメにおいて、最も世界で勝負できるのは漫画とアニメーション。実は一度もアニメーション映画を作ったことはない山田さん、林さんとのタッグの可能性に言及しつつ、「やっぱやめよ。林さん怖いっすもん」の一言。どうやら林さんに関する噂が業界では広まっている様子(?)。

 

全作品全話、企画・構成・絵コンテ・アフレコまでチェックしている林さん。漫画の担当作品数はもちろんですが、映像やメディアミックス周りの企画数も膨大な数のはず。改めて林さんのバイタリティは計り知れません。

 

漫画とアニメーションというアートとしての形式上、漫画原作のアニメ化は比較的シームレスに作品化がしやすいという側面がある一方で、漫画の再現度を高める必要があり、元々の魅力を活かしたうえで更にプラスアルファの要素が求められます。一方で、実写化となると話はまた変わり、元々の作品の世界観を実写に再変換して、違和感なく原作ファンも飲み込める形にする必要があるのです。

とはいえ、原作ファンを多く持つ作品の映像化は、注目度も高く宣伝の段階から温まった状態で公開日を迎えることができます。オリジナルの場合はゼロからのスタートであり、映画『ファーストキス 1ST KISS』の場合、タイミング的に繋げられるトピックもなく公開日は震えたと山田さん。

 

公開から口コミを大切に、SNS施策などに力を入れていった結果、5月6日までの公開89日間で観客動員数197万人、興行収入28.2億円という、異例のロングヒットとなり、何度も劇場に運ぶファンの方も多い愛される作品となりました。一言で「運が良かったです」と締めた山田さんでしたが、その裏の緻密な宣伝戦略など、良い作品で終わらせず、見られるように最善を尽くす姿勢が、輝かしい実績に繋がっているんだと感じました。

 

運と縁のお話に至ったところで、一度目の収録はここまで。今回は少し長めに二ヶ月ほど期間を空けて、山田さんと再びプライベートからクリエイティブの最先端の話まで、じっくりとお話していきます。

 

ぜひ番組とこのホームページでお楽しみください。