#12 「お金は面白すぎる」と語る糸井さん、その真意とは…
- Update:
- 2024.09.23
糸井重里 ほぼ日代表
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- 2024.09.23
ほぼ日代表 糸井重里(いとい・しげさと)。コピーライターとして一世を風靡し、作詞や文筆、ゲーム制作など、幅広く多彩に活躍。1998年にスタートしたウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」では、『ほぼ日手帳』をはじめ『ほぼ日のアースボール』『ほぼ日の學校』など様々なコンテンツの企画、開発を手掛ける。
イナズマフラッシュの収録レポートをお届けする本ページ。
引き続きゲストとして、ほぼ日代表 糸井重里さんをお招きした、#12収録の様子を紹介します。
前回#11でお話にあがった『成りあがり』までの経緯は、糸井さんのパワフルさの象徴とも言えるエピソードでした。
雑誌Rolling Stone Japanにて全くコネの無い状態から、コンサートの場所を調べ、テープレコーダーだけ買って単身沖縄に飛び、ダウン・タウン・ブギウギ・バンドの取材に出かけた20代の糸井さん。ちなみにライブのチケットや取材の予約は一切していない状態です。
ダウン・タウン・ブギウギ・バンド、宇崎竜童さんになんとか取材を敢行した糸井さんの原稿は、『GORO』編集者・島本脩二さんの目に留まり、矢沢永吉さんのルポルタージュの依頼として『成りあがり』の企画が立ち上がっていくのでした。
当時のロックミュージックは文化全体に大きな影響を与えるムーブメントでした。何を着て、何を食べ、どんな風に考えるか。生き方ごと真似したい!という人が多く現れるほどの熱狂が渦巻いていたのです。
糸井さんはその事象に大きなショックを受けたと言います。大学に入り、学生運動などに関わった糸井さんからすると、そういった学生たちが若者全体だと思っていました。しかし当時の大学進学率は今と比べてもかなり低い割合。
「世界のことをわかってるみたいな顔して、実は澄んだ井戸水の中でパチャパチャやってるだけだった」。キャロルのコンサートを通して、自分の居た場所の小ささを知り、改めてキャロルの世界ってかっこいいじゃんと素直に思ったそうです。魅力で観客をなぎ倒していくキャロルに、糸井さんも圧倒されます。
『成りあがり』の顔合わせで、六本木の中華料理屋に集まったメンバーたち。カメラマンは伝説の写真家・篠山紀信さんが担当することが決まっていました。当時は積極的に取材者と関係性を築いていく、ニュージャーナリズムという手法が出てき始めていた頃でした。
かくして、バンドに付いていく形でルポルタージュの取材を始めた糸井さん。ライブ会場ではエキサイトしたファン同士が殴り合うようなことも(!)。そんな場面でも永ちゃんは自ら先頭に立ち、ファンを率い一体化していきます。動物として一目置く、という感覚だったそうです。
「どんなにため口であろうが親しくなろうが、僕は永ちゃんのちょっと子分なんですよ。」
子分という立場が決して嫌ではない。むしろそうなってしまう感覚。画面越しでも伝わってくる矢沢永吉さんの、動物としての強さを本にまとめた『成りあがり』は大ヒット。社会現象となり、より熱狂的な「永ちゃんブーム」を巻き起こしました。
ちなみにこの頃、沢田研二さんの『TOKIO』、西武の広告、そして『成りあがり』。他にもたくさんの案件を抱えながら、テレビ番組の『You』のスタート。30代前半の約5年間で後世に残る大きなプロジェクトに参画してきた糸井さん。かなりの忙しさかと思いきや、今の方が忙しいとのこと…。
コピーは根本的には一行、それが出来れば良いと糸井さん。仕事と称して考えてる振りしたり、資料取りに行く振りしたり、読み込んでるんですとか言ってみたり。実はそれは仕事でもなんでもなくて、ただ周りに付き合ってあげているだけなのかもしれません。耳が痛い方も多いのではないでしょうか? もちろん僕もその1人です!
有名になり、報酬も上がり、プレッシャーも増す…かと思いきや、実はそこまで稼いではいなかったそう。それは糸井さんがお金について考えることから、あえて距離を置いていたことが原因でした。その理由は「お金は面白すぎる」から。
仕事をしていく中で、お金を稼ぐことや利益を残すことに本気になっていたら、広告で稼ぐ側のプロを目指してしまっていたかもしれないと糸井さん。確かに、資本主義社会で生きる私たちにとって、お金の魔力は無視できるものではありません。
お金に囚われてしまい、面白さが分からなくなってしまう人。それを避けるための距離の置き方だったのです。文章や漫画でも同じ。上手になることに一生懸命になりすぎると、面白さは消えてしまうのです。学んでいる人よりも楽しんでいる人が上、それよりも遊んでいる人が上。
現代では最低限のアルバイトなどをしながら、創作活動や発信活動ができる時代になっています。だからこそ、やりたいことを優先に考えていけばいい。もし面白いアイデアだったら、お金や仲間は後から付いてくる。そんな若者に向けた糸井さんからの、柔らかくも熱いメッセージを感じた回になりました。
次回は、誰もが見たことのあるジブリ作品に関するコピーの話や、伝説のゲーム『MOTHER』制作の話から、「愛」に関する深い話まで。更に二人の対談は白熱していきます。
ぜひAmazon Musicとこのホームページでお楽しみください。