#38 テレビドラマはこうして作られる〜キャスティング・ギャラ・お金の話〜

Update:
2025.03.31

佐野亜裕美 ドラマプロデューサー

Update:
2025.03.31

佐野亜裕美、ドラマプロデューサー。東京大学教養学部卒業後、2006年TBSテレビに入社。2011年S Pドラマ『20年後の君へ』でプロデューサーデビュー。『ウロボロス』『99.9 刑事専門弁護士』『カルテット』『この世界の片隅に』などをプロデュース。2020年関西テレビに移籍し『大豆田とわ子と三人の元夫』『エルピス〜希望、あるいは災い』、業務委託でNHK『17才の帝国』をプロデュース。2018年エランドール賞プロデューサー賞、2022年大山勝美賞、2023年芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。

収録レポート

イナズマフラッシュの収録レポートをお届けする本ページ。

 

今回は番組5人目のゲストとして、ドラマプロデューサーの佐野亜裕美さんをお招きして録音された、#38収録の様子をご紹介します。

前回のエピソードでメインに話されたドラマ企画。この企画が通った後の流れについてのお話から今回はスタートします。佐野さんがプロデューサーとして実際に行ってきた、脚本作成からキャスティング、撮影スケジュールの組み立てまで、リアルな制作フローを聞いていきました。もちろん企画の通り方や、プロデューサーさん次第で大きく変わる部分なので、あくまで一例としてお見知りおきください。

 

まず、原作ものでキャストから企画が通るようなケースでは、脚本家さんと共に、原作の再構築について話し合いつつ、並行してスタッフィングとキャスティングを進めていくそう。

 

キャスティングにおいては、配役候補のリストを出し、第一希望の俳優さんが所属する事務所に連絡するところから始まります。といっても、連絡先を知らないケースも多く、人の紹介だらけと佐野さん。また演者さんのスケジュールやプライベートの状況など、様々な調整を重ねていくことが必要です。

一例として『大豆田とわ子と三人の元夫』でのキャスティング秘話も頂きました。3人の元夫役のバランスが非常に繊細な作品で、簡単に表現すると「組み合わせ」が全て。その理想の組み合わせのためには、1人ずつ決めていくのではなく、3人同時にキャスティングする必要がありました。

 

他の役との相性や全体のバランスを見て全員と少しずつ交渉を進め、8割OKの状態を重ねてようやくGOが出ることも。企画だけで100%OKというケースはそれほど無いそうで、最終的にひとつのチームとして「整う」ことが求められます。

 

そんなキャスティングの裏で監督の人選も進めなければなりません。例えば『エルピス-希望、あるいは災い』では、主演の長澤まさみさんの魅力を最大限に引き出せる監督として、大根仁さんを起用。過去の共演経験や印象を事前に確認し、しっかりと踏むべきステップを踏んで、進めていくことが重要なのです。

 

監督、脚本家、俳優。皆を口説くのがプロデューサーの仕事であり、ラブレターのように「なぜあなたがこの作品に必要なのか」を言語化し、伝えられるようにいつも考えている、と教えていただきました。

さらに話題はギャラ交渉や予算管理といったリアルな舞台裏へ。過去の実績や賞歴、また稼働日数や出演シーンの分量により変動する難しさがあり、慎重な調整が求められているそう。監督や脚本家が複数居るケースも多い日本のテレビドラマ界において、最初から最後まで見て責任を負っているのはプロデューサーだけ。多くの判断をスピーディーに行っていく必要があります。

 

そんな中で、佐野さんが「プロデューサーワークの本質はお弁当に詰まっている」と話してくれたのがとても印象的でした。作品によって現場のスケジュールや拘束時間、スタッフの構成も全く違う中で、いかにチームの全員が気持ち良く仕事を出来るか。そんな心配りや想像力が表れる一つのポイントがお弁当の手配。

 

『渡る世間は鬼ばかり』時代に弁当の手配をしていた佐野さん。あるメインキャストさんが鶏肉が嫌いという状況のなか、ADさんが鶏肉入りの弁当を頼んでしまうという痛恨のミス。リハーサル室でお弁当を全て並べて、鶏のつくねを取っていった光景は今でも忘れられないと言います。

 

その人のお弁当だけでなく、全員分から鶏のつくねの存在を消し去らないと、その人のことを考えずにお弁当を注文したことになってしまう。大規模な撮影だからこそ、一人ひとりのコンディションや気持ちが、現場の空気や最終的な仕上がりに繋がっていきます。もっとお弁当論を聞いてみたくなる、視聴者には見えてこないプロデューサーの見えない仕事の一端を知れるお話でした。

変化する時代の中で、ドラマを作り続けるためにプロデューサーが果たす役割とは何か。予算、キャスティング、演出、スタッフの采配…すべてを背負って走り続ける佐野さんの言葉のひとつひとつに、ものづくりの重みがにじみ出た回となりました。

 

次回は、収録1回目の最終回。佐野さんの普段のインプットや、プロデューサーとしての立場から「どんな脚本家と組むか」「理想のチームとは」といった本質的な問いが投げかけられます。若手脚本家との出会いをどう作るか、大御所との関係の築き方、そして今、佐野さん自身が感じている転換点について。

 

ぜひ番組と、このホームページでお楽しみください。