#39 佐野亜裕美が語るプロデューサーのリアル 〜若手脚本家との向き合い方と日々の雑務〜
- Update:
- 2025.04.07

佐野亜裕美 ドラマプロデューサー


- Update:
- 2025.04.07
佐野亜裕美、ドラマプロデューサー。東京大学教養学部卒業後、2006年TBSテレビに入社。2011年S Pドラマ『20年後の君へ』でプロデューサーデビュー。『ウロボロス』『99.9 刑事専門弁護士』『カルテット』『この世界の片隅に』などをプロデュース。2020年関西テレビに移籍し『大豆田とわ子と三人の元夫』『エルピス〜希望、あるいは災い』、業務委託でNHK『17才の帝国』をプロデュース。2018年エランドール賞プロデューサー賞、2022年大山勝美賞、2023年芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。

イナズマフラッシュの収録レポートをお届けする本ページ。
今回は番組5人目のゲストとして、ドラマプロデューサーの佐野亜裕美さんをお招きして録音された、#39収録の様子をご紹介します。
これまで3回にわたって、テレビドラマの企画の立ち上げ方から、キャスティングや監督選び、現場での立ち回りやプロデューサーとしての哲学まで、実体験を交えた貴重なお話をたっぷり伺ってきました。今回は1度目の収録最後となる4回目。
まずは、普段どういったところからインプットをして、企画の着想を得ているのかという話題から。佐野さんは複数のニュースアプリを使い、寝る前の1時間は情報収集に充てているそう。また、海外ドラマを見ていることが多く、もちろんそのまま企画にすることはありませんが、キャラクターを作る時のキッカケになったりすることも。
例として挙げていただいたのが、ジョディ・フォスター主演の『トゥルー・ディテクティブ ナイトカントリー』。恥ずかしながら自分は知らなかったのですが、『トゥルー・ディテクティブ』シリーズはエミー賞5冠にも輝いた屈指の人気シリーズで、製作総指揮にも入っているジョディ・フォスターは、このシリーズに惚れ込み出演を快諾。約50年振りのテレビドラマ出演となった話題作です。
作品内でのジョディ・フォスター演じる刑事リズ・ダンバースが「すっごい口が悪い」と佐野さん。その役が絶妙で面白く、こういう口が悪い女のキャラクター良いな、と思いながら見ているとのこと。ストーリーは覚えていなくてもキャラクターを覚えていることが多いそうで、佐野さんが手掛けてきた作品のキャラクターたちがとても魅力的なことと関係があるのかもしれません。
漫画も多く読まれる佐野さんですが、漫画原作のドラマはこれまであまりやってきていないそう。また、ドラマの企画に関しては「0から1」の部分が楽しいから、そこにエネルギーを費やしたいと教えてくれました。
そんな流れから、テレビドラマ界における原作ものとオリジナルの立場の違いのお話に。業界全体では原作付き企画の方が通りやすい現実もあり、その背景には「旗を立てる」というプロデューサーの役割が関係していると言います。つまり、企画の方向性を明確に提示し、周囲の理解を得ていく旗印として、既に完成された原作は強力なツールとなるのです。一方で、ゼロから作品世界を立ち上げる苦労と楽しさは、やはりドラマ制作における代えがたい魅力。
その開発において重要な役割を果たしているのが、佐野さんが個人的に立ち上げた“部活動”としてのプロジェクト。若手脚本家と、企画を持ち寄って開発を進めるだけでなく、ミリアゴンスタジオというコンテンツスタジオと連携し、脚本家への開発費支払いまで実現しているのです。
テレビ局など従来の枠組みでは難しい「脚本の準備段階への対価」がここでは可能に。業界の新しい仕組みづくりを進めている佐野さんでした。
編集者もプロデューサーも、仕事の9割は「謝罪」「調整」「雑務」。そんなお話から、トピックは「雑務」についてへ。、会食の店探し、打ち合わせの場所探し、会議室の手配…。そこから学ぶものもあるのは前提としつつ、「佐野さんの才能は雑務に充てるべきじゃない」と淡々とアシスタントの必要性を説く林さん。
佐野さんとしては、人にやってもらうのがどうしても申し訳ない気持ちがあるとのこと。しかし林さんは引きません。アシスタントに頼むことは、その人にとって学びの機会を渡すことでもあると説得していき、いつの間にか佐野さんも「募集します!」と宣言。
1982年生まれの二人。教えてもらう、育ててもらう立場から、後進を育てるフェーズへと移り変わってきているのかもしれません。佐野さんは脚本家さん、林さんは漫画家さん。クリエイターと二人三脚で走っていく職種であり、年齢やキャリアによってコミュニケーションや関係性の築き方を変えていかなければいけない難しさを、二人の言葉の節々から感じました。
また、話は物語における感情の扱い方へ。飲み会で「林士平の喜怒哀楽を聞こう!」というコーナーまで生まれたほど、感情の起伏が少ないと思われている林さんが、どのように漫画家さんと感情や物語の打ち合わせをしているのか気になると佐野さん。
作中人物の感情が理解できなかったり矛盾があったりする場合、それは物語上のバグだから取り除くのが基本中の基本。だからこそ、感情の話ばっかりしてるとのこと。漫画家さんの発想とのズレはコミュニケーションをしっかりと取って、同じ方向を向くようにしているそうです。
それを聞き感心する佐野さん。「ペッパーくん」と林さんが呼ばれていた理由は、そのポーカーフェイスさに合わせて、学習速度がとても早いこと。分からないことをすぐに分からないと伝え、自身を成長させていくその姿勢が学習速度の早さに繋がっているのかもしれません。
あっという間に初回収録分は最終回。次回以降はリスナーの皆さんから頂いたメッセージを紹介しつつ、より深い二人の対談をお届けします!
ぜひ番組と、このホームページでお楽しみください。