#42 ボツになったドラマとプロデューサーの本音

Update:
2025.04.28

佐野亜裕美 ドラマプロデューサー

Update:
2025.04.28

佐野亜裕美、ドラマプロデューサー。東京大学教養学部卒業後、2006年TBSテレビに入社。2011年S Pドラマ『20年後の君へ』でプロデューサーデビュー。『ウロボロス』『99.9 刑事専門弁護士』『カルテット』『この世界の片隅に』などをプロデュース。2020年関西テレビに移籍し『大豆田とわ子と三人の元夫』『エルピス〜希望、あるいは災い』、業務委託でNHK『17才の帝国』をプロデュース。2018年エランドール賞プロデューサー賞、2022年大山勝美賞、2023年芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。

収録レポート

イナズマフラッシュの収録レポートをお届けする本ページ。

 

今回は番組5人目のゲストとして、ドラマプロデューサーの佐野亜裕美さんをお招きして録音された、#42収録の様子をご紹介します。

今回もリスナーの皆さまから頂いた質問メール、「これまでボツになったけど、いつかやりたい企画はありますか?」という話題から番組はスタートしていきます。

 

佐野さんが語ってくれたのは、実現に至らなかった企画の数々。そのなかには、自らが企画を出して通らなかったものはもちろん、原作ものとして魅力的な作品を見つけたものの、最終的に他のメディアが映像化したものや、脚本家と打ち合わせを重ねながらも自分のなかでプロットとして納得のいく形に到達できなかったもの、などさまざまな経緯がありました。

 

なかでも印象的だったのは仮称「BLデカ」という、タイトルの時点で気になる企画。高村薫さんの『刑事・合田雄一郎シリーズ』から着想を得た、男4人の群像劇で佐野さんの中でキャストも構想済み。とある作家との開発もスタートしていたにも関わらず、自身の異動で頓挫してしまったそう。

 

「自分が会社員だから守れることもあるけど、守れないものもあるんだな」と語る佐野さんの言葉には、クリエイターと共に走りつつ、あくまで会社員であるという立場の難しさが滲んでいました。

企画が通らない理由は多岐にわたりますが、「ジャンルNG」や「えぐすぎる」という理由で却下されることもあるとのこと。林さんも、過去に編集者から「そのテーマは扱わない」と言われた経験を紹介。改めて、企画を決める側も人間であり、当然その人の価値観や哲学が反映される世界であることを実感させられるエピソードが続きます。

 

脚本やキャラクター設定が「小ボツ」になることは往々にしてあるとのことで、その都度調整や修正が必要になります。役者さんの哲学やイメージ、同時期の出演作との被りなど、様々な要素が絡み合い、出演自体取りやめになることもあれば、物語自体の大きな内容は変えず修正して対応するパターンもあるそうです。

 

演技へのこだわりや、繊細な役作りなど、役者さんによって作品へのアプローチは違い、そこへの意識によって現場の雰囲気も変わってきます。やり取りの回数が増えれば良い作品になるわけでもないため、佐野さんは配置のバランスに気を使っていると、ドラマ制作の裏側を教えていただきました。

また、今回語られた「音楽」に関するエピソードが、個人的にひときわ印象的でした。

 

劇伴(=劇中音楽)は、なんと脚本執筆の初期段階から構想が始まることもあるとのこと。たとえば『大豆田とわ子と三人の元夫』では、坂元裕二さんが「松たか子さんの背後にシンデレラ城が見えるようなオーケストラを」というイメージを共有。

 

これを受けて佐野さんは、作曲家であり現代音楽家の坂東祐大さんを紹介してもらい、オーケストラの壮麗な劇伴を実現。これは3人の夫のキャスティングが決まるより前の話ということなので、制作全体から考えてもかなり早い段階で進んでいったという事実に驚きました。

 

さらに、主題歌についても佐野さんなりの戦略が。例えば、松たか子さんには「出演とあわせてエンディング曲への参加もお願いしたい」と思っていたものの、ラップという初挑戦のジャンルだったこともあり、いきなり頼むのは避け、じわじわマネージャーさんを通じて“外堀”を固めつつ、作品の全体像や音楽の魅力を提示したうえで最終的に打診するという丁寧なアプローチ。佐野さんの仕事の丁寧さ、繊細さが垣間見えた印象的なエピソードでした。

番組後半では、若手プロデューサーの育成環境についても言及がありました。かつてはアシスタントプロデューサー(AP)が先輩に付き、仕事の進め方を間近で学ぶ徒弟制度が一般的でしたが、現在は人材不足や働き方改革の影響でそれも難しくなっているとのこと。

 

佐野さんは、自分の仕事で起きるトラブルを共有したり、継承したりする機会が少ないと話し、林さんは「佐野さんにつきたい人、絶対いますよ」と、#39でも話題にあがったアシスタント問題が再浮上します。「僕も若かったらドラマのプロデューサーの鞄持ちやってみたかったですよ」と林さん。

 

そもそもなろうと思ってなれるものでもない、ドラマのプロデューサーという職業。表には出せないとんでもない経験も星の数ほどできそうです。

 

次回はいよいよ佐野さんとの対談最終回。番組恒例の「何か一緒に作る企画」に向けて二人が話していきます。二人の化学反応から、どんなプロジェクトや企画が話題となるのでしょうか。

 

ぜひ番組と、このホームページでお楽しみください。