#60 ダウ90000のコント制作術と、物語作りの哲学

Update:
2025.09.01

蓮見翔 ダウ90000主宰・脚本家

Update:
2025.09.01

コント・演劇ユニット「ダウ90000」主宰、脚本家、演出家。1997年4月8日、東京都東久留米市生まれ。東京都立井草高等学校を経て、日本大学芸術学部映画学科卒業。大学在学中の2017年に前身グループ「はりねずみのパジャマ」を結成。2020年9月、現在の8人組「ダウ90000」を旗揚げ、すべての脚本・演出を手がける。第66・68回の岸田國士戯曲賞最終候補選出など演劇界でも高い評価を獲得。2023年にはForbes JAPAN 30 UNDER 30のENTERTAINMENT&SPORTS部門を受賞する他、2024年公開「AT THE BENCH」(奥山由之監督)では第2編で脚本を担当し注目を集める。2025年第7回演劇公演「ロマンス」では初めて全国4都市(東京・大阪・金沢・福岡)を回るツアーを開催。

収録レポート

イナズマフラッシュの収録レポートをお届けする本ページ。

 

今回は番組7人目のゲストとして、コント・演劇ユニット「ダウ90000」主宰で、脚本家・演出家の蓮見翔さんをお招きして録音された、#60収録の様子をご紹介します。

今回のリスナーさんから頂いた質問は「脚本の最初はどこから考え始めるか」というテーマ。

蓮見さんが作る演劇は、開演前に客席から見えている舞台のセットで、一番ワクワクするものを置くことを意識していると語ります。ダウ90000第7回演劇公演『ロマンス』では、舞台にジャングルジムを置くことで、観客が想像を膨らませる入り口をつくり、その裏切りで本番を最大化する設計にしたとのことでした。

演劇では幕で舞台を隠しておく形式もありますが、あえて見せておくやり方に蓮見さんのこだわりが伺えます。さらに、劇場体験そのものの話題も。座席に大量のフライヤーを置かない、配る場合はスマホケースに収まるカードサイズにする、といった工夫をしているそうで、手ぶらで来場できる快適さや終演後のストレスの少なさまで含めてコーディネートしていると振り返ります。

小劇場の動線や視界、荷物の置き場なども含め、慣例となっていて見落とされがちな細部にしっかり気を配り、演劇体験を向上させようという蓮見さんの意思を感じるエピソードでした。

話は戻って、脚本づくりの核心に。蓮見さんは、最初から伝えたいテーマを明確に掲げるより、脚本を書いている途中で、キャラクターから立ち上がってくるものをテーマとして見出す型だと言います。テーマを意識するがあまり、物語の進行のために行動する登場人物が現れた瞬間に冷めてしまうという観点も。

林さんも、作者による操り人形の糸が見えないように意識している一方で、どうしても漫画の場合は先生の美学や日頃の思考が、キャラクターの台詞に宿ること自体は避けられないとのこと。それこそが作家性であり、魅力に繋がる部分でもあるのが難しいポイント。キャラクターが自分の一部として物語の中に生きているため、勝手にキャラクターが作者と同じ方向を向いて動いている、というようなイメージでしょうか。

蓮見さんのコントの作り方は「一番大きい裏切り(大ボケ)」を軸に、そこへ向けて小ボケやシチュエーションを配置していくやり方だそう。言わせたい台詞から逆算し、後から関係性や場所を決めることもあり、その場合はシチュエーションは最後に決まってきます。

ファンの方ならお馴染みの『ピーク』というネタでは、「今、人生で一番楽しいからほっといてくれ!」という台詞を最高に輝かせるために場面を組み上げた、という具体例も。また、賞レース向けのネタの場合は更に違う要素も考える必要があり、一言で「ネタ」と言っても、演じる場の規模やルールによって大きく考え方が変わってくるのです。

林さんからはレジェンド手塚治虫さんの漫画の描き方に関するエピソードが。『ブラック・ジャック』では週刊連載にも関わらず、担当編集に3話分のネームを見せ、一番面白いと思うものを選ばせていたとか。担当編集者のプレッシャーは、想像するだけで冷や汗が出てきそうです。

ネタを仕上げていく局面では、全員が台詞を覚えた後のネタ合わせの段階で大きく差し替えることも多いというお話も。漫才のようにざっくりの展開だけ決めて、合わせてみる方法もあるなかで、ダウ90000ではアドリブに頼らず脚本を守って演技の精度で勝負するスタイルだと語ります。

番組終盤では、アニメのアフレコ現場におけるディレクションの話題へ。リアルを追いかけるか過剰にいくか。作品ごとに合う演技スタイルがあり、正解・不正解という話ではありません。テスト収録後、監督や音響監督があくまでブース外で議論して、要望を取りまとめる形。ユニットでのコントやお笑いのやり方とは大きく違う方式に、それぞれのプロフェッショナルとしての矜持を感じる一幕となりました。

次回は早くも蓮見さんとの対談最終回。イナズマフラッシュ恒例の、林さんとゲストのコラボ企画について話していきます。蓮見さんとはどんなアイデアが拡がっていくのか、ご期待ください。

ぜひ番組とこのホームページでお楽しみください。