#05 佐野亜裕美さん対談まとめ

Update:
2025.05.11

対談まとめ レポート

Update:
2025.05.11

このページでは、各ゲストと林士平さんの対談の内容を、トピックごとにまとめて掲載しています。全8回の対談終了後、二人が話してきた内容や話題に上がった作品を振り返りながら、トップランナーの脳内を覗き見しましょう!

収録レポート

今回はイナズマフラッシュ収録レポート特別編!

ドラマプロデューサーの佐野亜裕美さんとお届けした、全8回をトピックごとに振り返っていきます。

  • 出会いと関係性

二人の出会いは10年前の渋谷のロックバー。「出版社の編集者とドラマプロデューサーが集まる交流会」のようなもので、お互いの仕事の話や愚痴を言い合う会だったと振り返りました。

 

また、その会での林さんは「ペッパーくん」というニックネームがつけられており、林さんの感情がどこで動くのか分からないと話題になり、「林士平の喜怒哀楽を聞こう!」というコーナーまで生まれていたそうです。対談内でも「林くんも怒ったりするの?」と、佐野さんが時々思い出したように林さんをロボット扱いしていたのが印象的でした。

 

  • 東京大学、TBSへのキッカケは恋愛?

佐野さんがテレビ局を目指した経緯があまりにも想像と違い波乱万丈だったので、駆け足ですがまとめさせていただきます。

 

高校3年生の11月、恋愛の三角関係が原因で不登校になっていた佐野さんの元に、その恋敵だった女性が推薦で東京の私大への進学が決まったというニュースが届きます。自分は未来が見えず家にこもっている中で、恋敵は東京への進学が決まる。そんな状況が許せなくなった佐野さんは一念発起。

 

恋敵より絶対に偏差値が上の大学にいってやる!と、日本の文系大学最高峰である東京大学文科I類を目指し、センター試験まで2ヶ月を切った状態から毎日4時間睡眠を切るレベルで猛勉強。見事合格を掴み取ってしまうのです。

 

東大に入学後、ここは自分のいる場所じゃないと感じ、大学1年生の夏前に休学してフリーター生活を送るなどの経験を経て、元々は大学院に進もうと思っていたという佐野さん。しかし、当時の恋人がアナウンサー試験を受けていたところ、テレビ局のエントリーシートが面白かったことをキッカケに制作を受けてみたところTBSに合格。意外にも人生の分岐路は恋人がキーを握っていた佐野さんの就職までの道のりでした。

  • 佐野さんの仕事術

テレビ業界でトップランナーとして走り続け、様々な経験をしてきた佐野さん。少し一般人の私たちと仕事の内容は異なるかもしれませんが、必ず活かせることがあるはず!ということで、番組内で登場した仕事に関する佐野さんの考え方についてまとめてみます。

 

・価値観さえ決まれば企画書に脚色は要らない

 

普段私たちが知ることのない、テレビドラマの企画書について。

 

■仮タイトル

■はじめに  (自分の実体験や、この作品を作るモチベーション)

■作品概要、キャラクター紹介

■1話のプロット

■2〜10話の全体構成

■脚本家・プロデューサーの名前 

と、最近はPowerPointなどを用いビジュアルまで作り込む人も多いイメージですが、シンプルに作品の情報をまとめている佐野さん。『エルピス-希望、あるいは災い』の際は事前に脚本を作っており、見たことのないものを作るためには、脚本を先に作るのが良いのではないかと作り方をシフトしているとのこと。

 

佐野さんの考えではドラマは卒業論文のようなもので、問いがあり、仮の答えがあり、それを物語で証明して世の中に提示する。その問いの立て方と仮の答えに全力を費やしているそうです。

 

企画書の段階で作家さんと共有できる価値観が固まらないと、視聴率などで一喜一憂することに。佐野さんは高い視聴率を取った経験があるも、それに対する達成感が得られなかったそうで、今は視聴率だけを追い求めるような作り方はしていないと教えていただきました。

 

・チームとして整うためのキャスティング

 

キャスティングにおいては、配役候補のリストを出し、第一希望の俳優さんが所属する事務所に連絡するところから始まります。といっても、連絡先を知らないケースも多く、人の紹介だらけと佐野さん。また演者さんのスケジュールやプライベートの状況など、様々な調整を重ねていくことが必要。

 

一例として『大豆田とわ子と三人の元夫』でのキャスティング秘話も頂きました。3人の元夫役のバランスが非常に繊細な作品で、簡単に表現すると「組み合わせ」が全て。その理想の組み合わせのためには、1人ずつ決めていくのではなく、3人同時にキャスティングする必要がありました。

 

他の役との相性や全体のバランスを見て全員と少しずつ交渉を進め、8割OKの状態を重ねてようやくGOが出ることも。企画だけで100%OKというケースはそれほど無いそうで、最終的にひとつのチームとして「整う」ことが求められます。

 

・プロデューサーワークの本質はお弁当に詰まっている

 

ギャラ交渉や予算管理といったリアルな舞台裏では、過去の実績や賞歴、また稼働日数や出演シーンの分量により変動する難しさがあり、慎重な調整が求められているそう。監督や脚本家が複数居るケースも多い日本のテレビドラマ界において、最初から最後まで見て責任を負っているのはプロデューサーだけ。多くの判断をスピーディーに行っていく必要があります。

 

そんな中で、佐野さんの「プロデューサーワークの本質はお弁当に詰まっている」というお話がとても記憶に残りました。作品によって現場のスケジュールや拘束時間、スタッフの構成も全く違う中で、いかにチームの全員が気持ち良く仕事を出来るか。そんな心配りや想像力が表れる一つのポイントがお弁当の手配。 

 

『渡る世間は鬼ばかり』時代に弁当の手配をしていた佐野さん。あるメインキャストさんが鶏肉が嫌いという状況のなか、後輩のADが鶏肉入りの弁当を頼んでしまうという痛恨のミス。リハーサル室でお弁当を全て並べて、鶏のつくねを取っていった光景は今でも忘れられないと言います。

 

その人のお弁当だけでなく、全員分から鶏のつくねの存在を消し去らないと、その人のことを考えずにお弁当を注文したことになってしまう。大規模な撮影だからこそ、一人ひとりのコンディションや気持ちが、現場の空気や最終的な仕上がりに繋がっていくのです。

  • 佐野さんが気になったコンテンツ

 

普段からインプットを欠かさない佐野さん。二人のトークの中で登場した、気になったコンテンツに関して、何作品かピックアップして振り返ります。

 

・『トゥルー・ディテクティブ ナイトカントリー』

 

シリーズはエミー賞5冠にも輝いた屈指の人気シリーズで、製作総指揮にも入っているジョディ・フォスターは、このシリーズに惚れ込み出演を快諾。約50年振りのテレビドラマ出演となった話題作です。本番組のプロデューサー石井さんも、これを観るためにU-NEXTに加入したそうな。

 

アラスカの「夜の国(ナイト・カントリー)」で科学研究所に勤める8人の男たちが忽然と姿を消す事件が発生し、昔の相棒であり、過去の事件から確執のある2人が捜査に当たる。それぞれが抱える闇に向き合いながら氷の下の真実を掘り起こしていく、というストーリー。

 

作品内でジョディ・フォスター演じる刑事リズ・ダンバースが「すっごい口が悪い」と話していた佐野さん。その役が絶妙で面白く、こういう口が悪い女のキャラクター良いな、と思いながら見ているとのこと。決して品行方正な愛されやすいキャラクターでなくても、なんだか魅力的でチャーミングな存在で、話は日本のドラマにおける、ある種画一化された登場人物たちへの疑問というトピックにも繋がっていきました。

 

・『アドレセンス』

 

製作が行われたイギリスでは公開初週に第1話が約650万人、第2話が600万人の視聴者数を獲得し、同国史上最高の視聴記録となった全4話のNetflixのリミテッド・シリーズ。

 

13歳の少年が引き起こした衝撃的な事件を軸に、捜査する刑事、少年の同級生たち、加害者家族など、関係者の姿がリアルに描かれ、根底にある問題が浮き彫りにされるショッキングなストーリーはもちろん、全話ワンカットで撮影されていることも特徴です。

 

佐野さんは、ハリウッドの有名俳優が続々出てくる超大作!というよりかは、制作費を抑えながら様々な工夫や作り手の熱意が伺える作品を勉強として観ているとのこと。「今の時代を知ること」「これからの変化を読むこと」に重きを置いたインプットへと変わってきているそうです。

 

・『教皇選挙』

 

アカデミー賞8部門ノミネート、『西部戦線異状なし』により一躍世界にその名を知らしめたエドワード・ベルガー監督の最新作。『教皇選挙』はいわゆる、映画館で観るべき映画。一時停止せずに最後まで観るべき構成になっており、映像のデザインも素晴らしいとのことで、絶対に見たほうが良いと太鼓判を押していた佐野さん。

 

本番組配信中の2025年4月21日には、教皇フランシスコが亡くなったというニュースが世界を駆け巡りました。1936年12月にアルゼンチン・ブエノスアイレスでホルヘ・マリオ・ベルゴリオとして生まれた教皇は2013年3月、前任のベネディクト16世が異例の辞任をしたのを受けて、南北アメリカ大陸および南半球から初めて教皇になった人物。

 

新たなローマ教皇を選ぶ「コンクラーベ」。つまり教皇選挙が行われることになり、非常にタイムリーな作品となりました。ニュースを受けて観客動員数も大きく増加しているとのこと。佐野さんが絶対に映画館で観るべき!と推す作品ですから、ぜひ皆さんも配信を待たずに劇場でご覧になってはいかがでしょうか。

  • ドラマ化ありきの漫画

 

番組恒例となった一緒に進めていく企画のお話で、話題にあがったのは漫画✕ドラマ。佐野さんからは「ドラマ化ありきの漫画」を作るというアイデアを頂きました。従来の「漫画をドラマ化する」流れを逆転させ、あくまで全8話×45分のドラマ尺を前提に、コミックス6〜7巻相当のボリュームで物語を構築。

 

ドラマ前提の企画とすることで、物語の組み立て方やキャラクターも変わってきます。例えば、実写化した後の画の面白さをイメージして、現実世界の現代日本を設定の基本としつつ、なにか一つルールや設定が違うSF感のある作品などもキャッチーに機能しそうです。

 

今回は簡易的にですが、ドラマプロデューサーの佐野亜裕美さんとお届けした、全8回をトピックごとに振り返っていきました。

 

個人的に印象に残ったのは、林さんと佐野さんの好奇心の強さでした。基本的に林さんが話を聞いていく構成の本番組ですが、佐野さんの考えていることや疑問によって拡散していくテーマと、そのスピード感がとても心地よく、時間が一瞬で過ぎていったような印象です。

 

林さんが猛スピードで問題を解決し次へ次へ進んでいくタイプだとすると、佐野さんは問題を一つ抱えて様々なパターンを試しながら最適解へ走っていくようなタイプかな、と勝手に想像していました。もしかしたら二人の作ってきた週刊連載とワンクールのドラマ、という時間軸の違いがその差を生んでいるのかもしれません。

 

表舞台から裏側まで、様々なクリエイターをお招きしてきたイナズマフラッシュ。今後も豪華ゲストを予定しています。これまでの対談相手と一緒に進めていく企画の進展も…?

 

ぜひ番組とこのホームページでお楽しみください。