#52 映画はこうして生まれる、林士平×山田兼司による映画企画会議

Update:
2025.07.07

山田兼司 映画・ドラマプロデューサー

Update:
2025.07.07

Tyken Inc. CEO 映画・ドラマプロデューサー。慶應義塾大学法学部卒。ドラマ「BORDER」シリーズ、「dele」などを手掛け、東京ドラマアワード優秀賞を2度、ギャラクシー賞を3度受賞。また、仏カンヌでは「dele」でグランプリを受賞。映画「怪物」でカンヌ国際映画祭脚本賞、クィアパルム賞の2冠。「ゴジラ-1.0」では北米の邦画興行収入歴代1位を記録し、史上初のアカデミー賞視覚効果賞を受賞。同年、個人として「怪物」「ゴジラ-1.0」で2つのエランドール賞と藤本賞を受賞。北米では2023年を代表する「アジアゲームチェンジャーアワード」をグラミー賞受賞アーティストのアンダーソン・パークらと共に受賞した。2024年よりPGA(Producers Guild of America)の正式会員に選出。最新の企画・プロデュース作は「ファーストキス 1ST KISS」。

収録レポート

イナズマフラッシュの収録レポートをお届けする本ページ。

今回は番組6人目のゲストとして、映画・ドラマプロデューサーの山田兼司さんをお招きして録音された、#52収録の様子をご紹介します。

全8回に渡る山田さんとの対談も今回で最後。番組のコンセプトであり、前回#51でも盛り上がった、林さんとゲストが一緒に何かを創る企画。今回は「短編映画」という括りで、映画プロデューサーとしての山田さんのコミュニケーションの取り方や、企画へと仕上げていく一部始終を実際にやってみることになります。

まずは林さんの作家性について、山田さんが探りを入れていく展開に。漫画家さんから指摘された傾向として、何者にも属さない苦しみ、という方向性があると林さん。実は番組開始当初の#02でも語られているのですが、林さんは台湾人2世であり、国籍を変更したという経歴があります。

移民や人種、民族の話は島国である日本からすると、少しセンシティブな印象がありますが、北米や西欧諸国ではそれが日常であり、常についてまわるテーマ。映画の世界でも、いい作品の多いテーマだと言う山田さんに紹介して頂いた作品が『パスト ライブス/再会』。

セリーヌ・ソン監督の長編映画デビュー作品であり、自身が12歳の頃に経験した海外への移住体験から構想が生まれた作品です。第96回アカデミー賞で作品賞、脚本賞にノミネートされ、大きな注目を集めました。そんな潮流もあり、林さんから出たアイデアは「30歳で国籍を変えた日」というテーマでした。

生まれてから30歳まで台湾人として暮らしてきた林さんが、自らの意思で日本人になることを選んだ瞬間。

キッカケとなったのは、仕事で訪れたアムステルダムの空港で、強制退去させられた瞬間。日本で発行された台湾のパスポートは少し特殊であり、またトランスファーで訪れたアムステルダム空港で、オランダのビザを発行していなかったため、EU圏内の規定で帰国せざるを得ない状況になってしまいました。

システムの問題であれば国籍を変えよう、というシンプルな考えの元だったそうですが、一方でアイデンティティはグレーだと林さん。もちろん母国語も日本語であり、育ちも日本語、日本文化にどっぷりですが、日本人と言っていいのかしら問題はずっと抱えているとのこと。

強制退去と国籍変更の手続き。どちらも誰も経験したことがないシチュエーションで、特殊な経験だからこそ、短編映画というプラットフォームではどちらかにフォーカスしたほうが面白そうだとお話は進んでいきます。

ストーリーとは人の心・感情を動かす技術であり、いくら短編映画といってもストーリーが無ければ人の心は動きません。そのストーリーには、7つくらいの大事なエレメントがあり、林さんのお話の中にはそれが全部入っていると山田さん。そのうえで、国籍を変えた前と後でどんな変化があったのかについて聞いていきます。

林さんから飛び出したのは、国籍変更の際に「なぜ日本人になりたいのか」について作文を書かされたというエピソード。周りの面接を受けている方は、日本語がままならない方もちらほら。そんな状況の中、どうせ書くなら本気で書くぞ!と、いかに自分が日本に役立つ人材か、というテーマで作文を書いたという林さん。

それが自分の中ではエネルギーとなっているそうで、国、日本に役に立つという意識が大きな変化だったと言います。一方で日本のパスポートを取得し、日本人になったとて、仕事は変わらず続き、家族とのリレーションも変わらず、そこには今まで通りの日常がある。国籍という、個人とまつわるとても大きな要素である一方で、ミクロで見ると生活とは関係の無い、ある種ラベル的な役割でしかない。

わずか20分足らずで、日本における民族や国籍の扱いに一石を投じる、コンセプトを持った作品の大枠が仕上がってしまいました。今回はあくまでロールプレイとしてであり、林さんと山田さんの交友関係がベースとなっての話し合いでしたが、山田さんの話を受け取り面白いポイントを抽出し、深堀っていく一連の流れは聞いていてとてもワクワクする展開に。

皆さん劇場でお会いしましょう!

エンディングでは、おなじみとなった番組プロデューサーの石井さんが登場。

林さんと山田さんの対談を改めて振り返ってみると、山田さんの優しくて上品な語り口はありつつ、二人の関係性が少し見える強めの応酬もありつつで、とても楽しく、同時にクリエイティブのかなり深い部分をサラッと置いていくような、とてもイナズマフラッシュらしい対談になったと個人的に思います。

そして次の対談ゲストが発表となりました。コント・演劇ユニット「ダウ90000」主宰、脚本家、演出家の蓮見翔さんです!

映画『ルックバック』のトークセッションをキッカケに知り合ったお二人。食事に行った際も、イナフラがあるからなと、色々とセーブして過ごしていたそう。林さんのパーソナリティ力の向上が著しいです!

コントや演劇のお話から、様々な媒体、プラットフォームで活躍する二人は、どんなトピックを話すのか。
次回、恒例となった林さんのソロ回を挟んでから、蓮見さんにはゲストとしてご登場いただきます。

ぜひ番組とこのホームページでお楽しみください。